HVPT とは? 英語の聞き分け(ミニマルペア)を鍛える「高変動音素訓練」の仕組みと効果
HVPT は High Variability Phonetic Training の略で、日本語では「高変動音素訓練」と訳されます。いろいろな人の声で、light と right のように 1 音だけ違う単語を聞き分け、そのたびに答え合わせをする、というとてもシンプルな訓練法です。1990 年代はじめに、日本語話者の L と R の聞き分けを題材にアメリカで確立され、その後 30 年以上、さまざまな言語や音で効果が確かめられてきました。
この記事では、HVPT が何をする訓練なのか、なぜ「いろいろな声」が大事なのか、どんな効果が報告されているのか、そして自分で取り組むときのポイントを順に紹介します。
HVPT は何をする訓練か
HVPT の中身は、次の 4 つにまとめられます。
- ミニマルペア(light と right のように、1 つの音だけが違う単語の組)を使う
- 同じ単語を、できるだけ多くの話者の声で聞く
- 聞いたら、どちらの単語だったかを選ぶ(2 択)
- 答えるたびに、すぐ正解か不正解かを知る
これを 1 回あたり短時間、何日にもわたってくり返します。英文を聞いて意味を取る「リスニング」とは違い、文脈の助けがない状態で「どちらの音か」だけを判断し続けるのが特徴です。
なぜ「いろいろな声」なのか
同じ right でも、話す人が変わると音はかなり変わります。声の高さ、話す速さ、アクセントによって、音の中身は一人ひとり違います。下の 6 つは、すべて同じ right です。
| アメリカ英語・男性 | |
| アメリカ英語・女性 | |
| イギリス英語・男性 | |
| イギリス英語・女性 | |
| オーストラリア英語・男性 | |
| オーストラリア英語・女性 |
1 人の声だけで練習すると、脳は「その人の right」を覚えてしまい、別の人の right には通用しないことがあります。実際に、L と R の訓練を 1 人の話者の声だけで行った研究では、新しい話者の声への効果の広がりが弱いことが報告されています(Lively et al., 1993)。
反対に、多くの声で同じ区別をくり返すと、声ごとの違いに惑わされず、「L と R を分けている手がかり」そのものに耳が向くようになります。研究者たちは、HVPT による変化を、音のどこに注意を向けるかが変わることだと説明しています(Lively et al., 1994)。
どのくらい効果があるのか
HVPT の効果を示した主な研究を、日本語話者の L と R を中心に紹介します。
- 数週間の訓練で、L と R を聞き分ける正答率が上がり、訓練に使わなかった新しい単語や新しい話者の声でも聞き分けられるようになった(Logan et al., 1991/Lively et al., 1993)。
- 訓練が終わってから 3 か月後・6 か月後のテストでも、上がった聞き分けの力はおおむね保たれていた(Lively et al., 1994/Bradlow et al., 1999)。
- 聞き分けの訓練しかしていないのに、L と R の発音も上手になった(Bradlow et al., 1997)。ただし、発音への効果は研究によって大きさがまちまちです。
- 32 の研究をまとめたレビューでは、HVPT は効果が高く、その効果が長続きする訓練法だと結論づけています(Thomson, 2018)。2025 年に発表された 79 の研究のメタ分析でも、聞き取りに対して中程度から大きな効果が確認されています(Uchihara et al., 2025)。
一方で、「話者は多ければ多いほどよい」とまでは言えないこともわかってきました。1 人の話者で訓練した場合との差は研究によってばらつきがあり(Zhang et al., 2021)、もともと音の聞き分けが苦手な人は、最初から変化の多い訓練だと伸びにくいという報告もあります(Perrachione et al., 2011、中国語の声調の研究)。易しいところから始めて、少しずつ声の種類を増やしていくのが現実的です。
また、日本語話者の L と R の訓練では、違いを強調した音から始めて、上達に合わせて自然な音に近づけていく方法も効果を上げています(McCandliss et al., 2002)。
普通のリスニング練習との違い
「毎日英語を聞いているのに、L と R が聞き分けられるようにならない」という人は少なくありません。会話や文章の中では、音を聞き分けなくても文脈で意味がわかってしまうため、耳が区別を学ぶ機会がないからです。HVPT は、文脈を取り除いて「どちらの音か」だけに答えさせることで、この区別を直接鍛えます(聞き流しだけでは伸びにくい理由は「英語耳は大人でも作れる」で解説しています)。日本語話者が L と R を聞き分けにくい理由は「なぜ日本人は L と R が聞き分けられないのか」で詳しく解説しています。
自分で取り組むときのポイント
- 単語だけを聞いて、2 択で答え、すぐに正解を確かめる。答えを知ってから聞き直すだけでは、同じ効果は得られません。
- 1 日 100〜150 問ほどを目安に、毎日続けます。研究でも、数週間にわたって訓練をくり返しています。一度にまとめてやらず、朝と夜などに分けてもかまいません。
- 正解ばかりでも、間違いばかりでも伸びにくくなります。迷いながらも半分以上は当たる、くらいの難しさを保つのがコツです。
- 声の種類は、慣れてきたら増やしていきます。最初から聞き取りにくい声ばかりだと、手がかりがつかめません。
難しいのは素材の準備です。HVPT には「同じ単語を何人もの話者が発音した音声」が必要ですが、一般の教材でこれを揃えるのは簡単ではありません。L と R、B と V の違いが音のどこに表れるかは、それぞれ「L と R の聞き分け方」「B と V の聞き分け方」で、音声とスペクトログラムを使って確かめられます。
PhonoFit の HVPT
PhonoFit は、HVPT の手順をそのままアプリにした聞き分けトレーニングです。
- 日本語話者が苦手な 17 の音のペア、804 語を、アメリカ・イギリス・オーストラリア英語の 12 種類の声で出題します。
- 聞いた単語を 2 択で選び、すぐに正解がわかります。
- 難易度は、答えの正誤に合わせて自動で調整されます。易しすぎず難しすぎない、ちょうどよい難しさの問題がいつも出るようにしています。
- 違いを強調した音声から始まり、上達するにつれて自然な音声になり、聞く声の種類も増えていきます。
- 間違えた問題は、違いを強調した音声やスペクトログラムで、その場で確かめられます。
主な参考文献:
Logan, J. S., Lively, S. E., & Pisoni, D. B. (1991). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/: A first report. Journal of the Acoustical Society of America, 89(2), 874–886.
Lively, S. E., Logan, J. S., & Pisoni, D. B. (1993). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/. II. Journal of the Acoustical Society of America, 94(3), 1242–1255.
Lively, S. E., Pisoni, D. B., Yamada, R. A., Tohkura, Y., & Yamada, T. (1994). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/. III. Long-term retention of new phonetic categories. Journal of the Acoustical Society of America, 96(4), 2076–2087.
Bradlow, A. R., Pisoni, D. B., Akahane-Yamada, R., & Tohkura, Y. (1997). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/: IV. Some effects of perceptual learning on speech production. Journal of the Acoustical Society of America, 101(4), 2299–2310.
Bradlow, A. R., Akahane-Yamada, R., Pisoni, D. B., & Tohkura, Y. (1999). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/: Long-term retention of learning in perception and production. Perception & Psychophysics, 61(5), 977–985.
McCandliss, B. D., Fiez, J. A., Protopapas, A., Conway, M., & McClelland, J. L. (2002). Success and failure in teaching the [r]–[l] contrast to Japanese adults. Cognitive, Affective, & Behavioral Neuroscience, 2(2), 89–108.
Perrachione, T. K., Lee, J., Ha, L. Y. Y., & Wong, P. C. M. (2011). Learning a novel phonological contrast depends on interactions between individual differences and training paradigm design. Journal of the Acoustical Society of America.
Thomson, R. I. (2018). High Variability [Pronunciation] Training (HVPT): A proven technique about which every language teacher and learner ought to know. Journal of Second Language Pronunciation, 4(2), 208–231.
Zhang, X., Cheng, B., & Zhang, Y. (2021). The role of talker variability in nonnative phonetic learning: A systematic review and meta-analysis. Journal of Speech, Language, and Hearing Research, 64(12), 4802–4825.
Uchihara, T., Karas, M., & Thomson, R. I. (2025). High variability phonetic training (HVPT): A meta-analysis of L2 perceptual training studies. Studies in Second Language Acquisition.
