L と R の聞き分け方:音とスペクトログラムでつかむ、いちばん実用的な手がかり
light と right、glass と grass。多くの日本語話者にとって、この 2 つはほとんど同じに聞こえます。この記事では「なぜ同じに聞こえるのか」を手短かに押さえたうえで、音声を聞きながら聞き分けの手がかりを、音声とスペクトログラム(音の成分を色で表した図)で確認していきます。イヤホンかヘッドホンを用意してください。
まず聞いてみる
同じ light / right でも、話す人が変わると音はかなり変わります。3 種類の声で聞き比べてみてください。
| アメリカ英語・男性 | ||
| イギリス英語・女性 | ||
| オーストラリア英語・女性 |
違いが分からなくても心配いりません。日本語のラ行は /l/ とも /r/ とも違う音(はじき音)で、日本語で育った耳はどちらを聞いても「ラ行」のカテゴリに丸め込んでしまいます。耳が悪いのではなく、脳の分類の問題です。つまり、分類を作り直せば聞こえるようになります。
聞き分けの手がかりは「こもり」
いちばん実用的な手がかりは、/r/ は出だしがこもることです。right の頭には、うっすら「ゥ」を挟んだような、暗くこもった響きがあります(英語話者はこの「こもり」を第 3 フォルマントの低下として聞いています)。それに対して /l/ の light は、出だしが明るく澄んでいて、舌が離れる「タッ」という輪郭があります。上のボタンで「こもって始まるか、明るく始まるか」だけに集中して聞き直してみてください。
スペクトログラムで、目で見て比べる
スペクトログラムは、音を時間と高さに分けて、どの高さの成分がどれだけ強く出ているかを色で表した図です。見方は次の 3 つです。
- 横軸は時間です。左から右へ進み、1 枚の図が単語 1 つ分(0.5 秒ほど)です。
- 縦軸は音の高さ(周波数)で、上ほど高い成分です。目盛りの数字の単位は Hz(ヘルツ)で、1 秒間に空気が何回振動するかを表します。たとえば 2000 は、1 秒間に 2,000 回の振動です。
- 色は成分の強さです。黒、紫、橙、白の順に強くなります。
声のところでは、強い成分が橙や白の横長のかたまりになり、縦に何段か重なって見えます。このかたまりを「帯」と呼び、下から 1 本目、2 本目、3 本目と数えます。いちばん下の縁に張りつく明るい層は声帯の振動そのもので、帯には数えません。母音の音色は 1 本目と 2 本目の帯で決まりますが(「hat・hut・hot の聞き分け方」で解説しています)、L と R の違いがはっきり出るのは 3 本目の帯です。専門用語では第 3 フォルマントと呼びます。図では、3 本目の帯に黄色の線(3)を重ねました。
図を横切る 2 本の細い枠は、それぞれの音で 3 本目の帯が通る高さの目安で、右端に「/l/ の帯域」「/r/ の帯域」と書いてあります。上端の記号は音の区切りです。L か R の区間には、その音の帯域の高さに太い枠を付けました。この太い枠の中を黄色の線が通っているかを見てください。図かボタンを押すと、再生に合わせて位置が進みます。


アメリカ英語・男性。黄色の線(3)が 3 本目の帯。
light の /l/ では、黄色の線(3 本目の帯)が 3,100 Hz あたりの高いところにあり、/l/ の帯域の枠に入っています。right の /r/ では、この帯が 1,500 Hz 付近まで下がって /r/ の帯域の枠に入り、母音に向かって 2,800 Hz あたりまで上がっていきます。前の節の「こもり」は、この低い帯を耳で聞いたものです。


アメリカ英語・男性。線の見方は上の図と同じ。
elect(選挙で選ぶ)と erect(直立した)のように、L・R が母音にはさまれていると、違いはさらにはっきりします。elect では、黄色の線が /l/ の間も 3,000 Hz 以上の高いところを通ります。erect では、/r/ のところで線が 1,600 Hz 前後までぐっと落ち込み、その上にぽっかり暗い穴が空きます。この落ち込みが、耳には「こもり」として聞こえます。
例語ペアで自己テスト
手がかりを意識しながら、ほかのペアでも試してみましょう。左が /l/、右が /r/ です。
/liːd/ 導く | /riːd/ 読む | アメリカ英語・女性 |
/loʊd/ 積み荷 | /roʊd/ 道路 | イギリス英語・男性 |
/ɡlæs/ ガラス | /ɡræs/ 草 | オーストラリア英語・男性 |
/flaɪ/ 飛ぶ | /fraɪ/ 揚げる | アメリカ英語・女性 |
/pleɪ/ 遊ぶ | /preɪ/ 祈る | イギリス英語・女性 |
/kəˈlɛkt/ 集める | /kəˈrɛkt/ 正しい | アメリカ英語・男性 |
/laɪs/ シラミ | /raɪs/ 米 | オーストラリア英語・女性 |
/loʊ/ 低い | /roʊ/ 列 | イギリス英語・男性 |
ここから先は「量」の世界
手がかりが分かっても、実際の会話スピードで聞き分けるには反復が必要です。研究で効果が確認されている方法は、多くの話者の声でミニマルペアを聞き、どちらかを判定して、すぐに答え合わせをする、という流れを毎日短時間くり返すこと(高変動音素訓練、HVPT)。この記事の再生ボタンを順に押すだけでは「正解を知ったうえで聞く」練習にしかならないので、ランダム出題と正誤フィードバックのある環境で鍛えるのが近道です。背景となる研究は「なぜ日本人は L と R が聞き分けられないのか」で解説しています。同じ方法で B と V を解説した「B と V の聞き分け方」、母音の「ア」を解説した「hat・hut・hot の聞き分け方」「hurt と heart の聞き分け方」もあります。
