英語耳は大人でも作れる:「聞き流し」だけでは伸びにくい理由と、耳の鍛え方
「聞き流すだけで英語耳に」という言葉をよく見かけます。英語を聞く量を増やすことは大切です。ただ、英語耳の土台になる「日本語にない音の区別」に限っては、聞き流しだけではなかなか育ちません。この記事では、その理由と、大人が英語耳を作るための練習を、研究をもとに紹介します。
英語耳とは「英語の区別で聞ける耳」
英語耳という言葉に決まった定義はありませんが、この記事では「英語の音を、英語の区別のとおりに聞き分けられる耳」と考えます。light と right、berry と very、hat と hut を、日本語の「ラ」「バ」「ア」1 つにまとめずに、別の音として聞ける状態です。
日本語で育った耳は、英語の似た音を、いちばん近い日本語の音に丸め込みます。耳が悪いのではなく、日本語に必要な区別だけを学んできた結果です。仕組みは「なぜ日本人は L と R が聞き分けられないのか?」で解説しています。
聞き流しで伸びにくい 3 つの理由
1. 文脈で意味が分かってしまう
会話や文章の中では、音を聞き分けなくても意味が分かることがほとんどです。「Turn ___ at the next corner.(次の角を ___ に曲がって)」と言われたら、聞こえたのが light に近い音でも、right だと分かります。脳は区別しなくても困らないので、区別を学ぶきっかけがありません。
2. 間違えても気づけない
聞き流しでは、自分が聞き間違えたかどうかを確かめる手段がありません。right を light と聞いても、文脈で補えれば違和感なく通り過ぎてしまいます。区別を学ぶには、「いまのはどっちだったか」をその場で答え合わせする経験が必要です。
3. 何年聞いても届かないことがある
アメリカで 12 年以上暮らしている日本語話者と、来て 1 年未満の日本語話者を比べた研究があります。長く暮らしている人のほうが L と R をよく聞き分けられたものの、それでも英語母語話者の水準には届いていませんでした(Takagi & Mann, 1995)。論文の題名そのものが「自然に英語に触れ続けることの限界」です。英語を聞く量を増やせば聞き分けもある程度は伸びますが、それだけで十分になるとは限らないのです。
文脈なしで聞いてみる
下の 3 問は、文脈の手がかりがまったくない状態での聞き分けです。それぞれ「再生」を押すと、2 つの単語のどちらかが流れます。聞こえたほうを選んでください。流れる単語は、ページを開くたびに変わります。
文の中なら聞き取れるのに、単語だけになると迷う。そういう音は、ふだん文脈に頼って聞いている可能性があります。
大人でも英語耳は作れる
聞き流しで育ちにくい一方で、区別そのものを狙った練習をすると、大人でも聞き分けは伸びます。日本語話者の L と R を題材にした研究では、多くの話者の声で単語を聞き、どちらかを選んで、すぐに答え合わせをする訓練を数週間続けたところ、聞き分けの正答率が上がりました。訓練に使わなかった新しい単語や、初めて聞く人の声でも聞き分けられるようになっています(Logan et al., 1991/Lively et al., 1993)。上がった力は、訓練が終わって数か月たっても、おおむね保たれていました(Lively et al., 1994/Bradlow et al., 1999)。
この訓練法は高変動音素訓練(HVPT)と呼ばれ、30 年以上にわたって効果が確かめられてきました(Thomson, 2018)。くわしくは「HVPT とは?」で紹介しています。
英語耳を作る 3 つのステップ
1. 苦手な音を知る
まず、自分がどの音の区別でつまずいているかを確かめます。日本語話者がつまずきやすいのは、L と R、B と V、「ア」の 3 種類(hat・hut・hot)などです。全部を同じように練習するより、苦手な組に時間を使うほうが効率的です。
2. 文脈なしで、多くの声で、答え合わせつきで聞く
単語だけを聞いて 2 択で答え、すぐに正解を確かめます。同じ単語をいろいろな人の声で聞くことで、声の違いに惑わされず、区別の手がかりそのものに耳が向くようになります。1 日 100〜150 問ほどを目安に、短時間でも毎日続けるのがコツです。
3. 聞き流しや多聴は、そのまま続ける
聞き流しが無駄なわけではありません。単語や表現を増やし、話す速さや音のつながりに慣れるには、たくさん聞くことが欠かせません。聞き分け練習と聞き流しは役割が違うので、両方を組み合わせるのがいちばんの近道です。音ごとの聞き分けの手がかりは「L と R の聞き分け方」「B と V の聞き分け方」「hat・hut・hot の聞き分け方」「hurt と heart の聞き分け方」で、実際の音声とスペクトログラムを使って解説しています。シャドーイングと組み合わせるときの順番は「シャドーイングの効果が出ない人へ」で紹介しています。
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主な参考文献:
Takagi, N., & Mann, V. (1995). The limits of extended naturalistic exposure on the perceptual mastery of English /r/ and /l/ by adult Japanese learners of English. Applied Psycholinguistics, 16(4), 379–405.
Logan, J. S., Lively, S. E., & Pisoni, D. B. (1991). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/: A first report. Journal of the Acoustical Society of America, 89(2), 874–886.
Lively, S. E., Logan, J. S., & Pisoni, D. B. (1993). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/. II. Journal of the Acoustical Society of America, 94(3), 1242–1255.
Lively, S. E., Pisoni, D. B., Yamada, R. A., Tohkura, Y., & Yamada, T. (1994). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/. III. Long-term retention of new phonetic categories. Journal of the Acoustical Society of America, 96(4), 2076–2087.
Bradlow, A. R., Akahane-Yamada, R., Pisoni, D. B., & Tohkura, Y. (1999). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/: Long-term retention of learning in perception and production. Perception & Psychophysics, 61(5), 977–985.
Thomson, R. I. (2018). High Variability [Pronunciation] Training (HVPT): A proven technique about which every language teacher and learner ought to know. Journal of Second Language Pronunciation, 4(2), 208–231.
