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2026 年 10 月 29 日

「ア」は 3 種類ある:hat・hut・hot の聞き分け方を音とスペクトログラムでつかむ

帽子の hat、小屋の hut、暑いの hot。カタカナで書くと「ハット」「ハット」「ホット」ですが、アメリカ英語ではこの 3 語の母音はどれも別の音で、hot も日本語話者の耳には「ハット」に近く聞こえます。日本語の母音は 5 つしかないので、英語の「ア」に近い 3 つの音は、どれも日本語の「ア」1 つに丸め込まれてしまうのです。この記事では、音声を聞きながら、3 つの「ア」の違いをスペクトログラム(音の成分を色で表した図)で確かめていきます。イヤホンかヘッドホンを用意してください。

まず聞いてみる

アメリカ英語の 3 人の声で、hat・hut・hot を聞き比べてみてください。

アメリカ英語・男性
アメリカ英語・女性
アメリカ英語・男性

3 つとも同じに聞こえても心配いりません。音声記号で書くと、hat は /æ/、hut は /ʌ/、hot は /ɑ/ という別々の母音です。聞いたときの印象で言えば、次のような違いがあります。

単語母音聞こえ方
hat/æ/「エ」に寄った、明るく平たい「ア」。少し長めで、「ヘァ」のように聞こえることもある
hut/ʌ/短く、力の抜けた「ア」。日本語の「ア」にいちばん近い
hot/ɑ/奥で響く、こもった深い「アー」。長めで、少し「オ」に寄る

なお、イギリス英語では hot の母音は「オ」に近い別の音(/ɒ/)になり、「ホット」に近く聞こえます。この記事の音声はすべてアメリカ英語です。日本語にない音の区別が聞き取れない理由は「なぜ日本人は L と R が聞き分けられないのか?」で解説しています。母音でも仕組みは同じです。

聞き分けの手がかりは「明るさ」と「長さ」

3 つを分ける手がかりは 2 つあります。1 つは音の明るさです。hat がいちばん明るく、hot がいちばん暗く、hut はその中間です。もう 1 つは長さで、hut の母音は 3 つの中でいちばん短く切れます。まずは「明るい・中くらい・暗い」の 3 段階を意識して、上のボタンを聞き直してみてください。

スペクトログラムで、目で見て比べる

スペクトログラムは、音を時間と高さに分けて、どの高さの成分がどれだけ強く出ているかを色で表した図です。見方は次の 3 つです。

母音のところでは、強い成分が橙や白の横長のかたまりになり、縦に何段か重なって見えます。このかたまりを「帯」と呼びます。下から 1 本目と 2 本目の帯の高さが、母音の音色を決めています。図では、1 本目の帯に水色の線(1)を、2 本目の帯に黄緑の線(2)を重ねました。いちばん下の縁に張りつく明るい層は声帯の振動そのもので、帯には数えません。上端の記号は音の区切りで、枠で囲んだところが母音の区間です。図かボタンを押すと、再生に合わせて位置が進みます。

hat のスペクトログラム
2 が高く、1 と離れている
hut のスペクトログラム
2 は中ほどで、短い
hot のスペクトログラム
2 が下がり、1 に近づく

アメリカ英語・男性。水色の線(1)が 1 本目の帯、黄緑の線(2)が 2 本目の帯。

3 つの図で、違いがいちばんはっきり出るのは黄緑の線(2 本目の帯)の高さです。hat では 2 本目の帯が 1,800 Hz 前後と高い位置にあり、水色の線(1 本目の帯、700 Hz 前後)との間がいちばん大きく開いています。2 本目の帯が高いほど、音は明るく聞こえます。hut では 2 本目の帯が 1,400 Hz 前後まで下がり、母音の区間も短くなっています。この声では、hat と hot の母音がおよそ 0.26 秒なのに対して、hut は 0.2 秒ほどです。hot では 2 本目の帯がさらに 1,150 Hz 前後まで下がり、1 本目の帯との間が 400 Hz ほどに詰まって、2 本が 1 つの太い帯のように見えます。これが、こもった「暗い」音色です。

hat のスペクトログラム
いちばん明るい
hut のスペクトログラム
中くらい
hot のスペクトログラム
いちばん暗い

アメリカ英語・女性。線の見方は上の図と同じ。

女性の声では、全体に帯の位置が高くなります(hat の 2 本目の帯は 2,100 Hz 前後)。それでも、hat から hut、hot へと 2 本目の帯が下がっていく並びは同じです。声が変わっても、帯の高さの「順番」は変わりません。聞き分けで頼りにするのは、この相対的な明るさの違いです。

PhonoFit では、練習中に答えたあと、2 つの単語のスペクトログラムを音の区切りといっしょに並べて比べられます。耳で聞いた違いを、目で確かめながら練習できます。

例語ペアで自己テスト

3 つを一度に聞き分けるのは難しいので、まずは 2 つずつ練習します。前半の 4 組は hat と hut の違い(/æ/ と /ʌ/)、後半の 4 組は hot と hut の違い(/ɑ/ と /ʌ/)です。左右どちらが明るく聞こえるか、どちらが短く切れるかに注目してください。

/kæp/ 帽子
/kʌp/ カップ
アメリカ英語・女性
/bæɡ/ かばん
/bʌɡ/ 虫
アメリカ英語・男性
/mætʃ/ 試合
/mʌtʃ/ たくさん
アメリカ英語・女性
/fæn/ ファン、扇風機
/fʌn/ 楽しみ
アメリカ英語・男性
/ʃɑːt/ 発射、ひと口
/ʃʌt/ 閉める
アメリカ英語・女性
/dɑːk/ 波止場
/dʌk/ アヒル
アメリカ英語・男性
/ˈkɑːlər/ 襟
/ˈkʌlər/ 色
アメリカ英語・女性
/ˈwɑːndər/ 歩き回る
/ˈwʌndər/ 不思議に思う
アメリカ英語・男性

ここから先は「量」の世界

手がかりが分かっても、会話のスピードで母音を聞き分けるには反復が必要です。研究で効果が確認されている方法は、多くの話者の声でミニマルペアを聞き、どちらかを判定して、すぐに答え合わせをする、という流れを毎日短時間くり返すこと(高変動音素訓練、HVPT)。この記事の再生ボタンを順に押すだけでは「正解を知ったうえで聞く」練習にしかならないので、ランダム出題と正誤フィードバックのある環境で鍛えるのが近道です。子音の聞き分けは「L と R の聞き分け方」「B と V の聞き分け方」、r のつく 2 つの「アー」は「hurt と heart の聞き分け方」で同じように解説しています。

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