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2026 年 11 月 4 日

hurt と heart の聞き分け方:どちらも「ハート」に聞こえる 2 つの「アー」を音とスペクトログラムでつかむ

傷つけるの hurt と、心の heart。カタカナで書くとどちらも「ハート」ですが、英語では母音がまったく違います。bird を「バード」、first を「ファースト」と書くように、hurt の母音もカタカナでは「アー」と書かれるので、日本語話者の頭の中では 2 つの音が同じ「アー」に整理されてしまいます。日本語話者にとって、特に聞き分けにくい組の一つです。この記事では、音声を聞きながら、2 つの「アー」の違いをスペクトログラム(音の成分を色で表した図)で確かめていきます。イヤホンかヘッドホンを用意してください。

まず聞いてみる

アメリカ英語の 3 人の声で、hurt と heart を聞き比べてみてください。

アメリカ英語・男性
アメリカ英語・女性
アメリカ英語・男性

同じに聞こえても心配いりません。音声記号で書くと、hurt は /hɜːrt/、heart は /hɑːrt/ です。どちらも長い母音のあとに r が続きますが、母音の種類が違います。

単語母音聞こえ方
hurt/ɜːr/こもった暗い「アー」。「ウ」と「ア」の間のようにも聞こえ、最初から最後まで同じ響きが続く
heart/ɑːr/開いた明るい「アー」で始まり、後半で r のこもった響きに移る

r の響き自体も日本語にはない音です。日本語にない音の区別が聞き取れない理由は「なぜ日本人は L と R が聞き分けられないのか?」で解説しています。

聞き分けの手がかりは「始まりが開いているか」

2 つの違いがいちばんはっきり出るのは、h のすぐあと、母音の始まりです。heart は、まず口の開いた明るい「アー」が鳴り、そのあとで r のこもった響きに移ります。「ハー」から「ル」に寄っていくような、2 段の動きです。hurt には明るい「アー」の部分がなく、h のすぐあとから最後まで、こもった音が 1 色で続きます。r の響きが最初から混ざっている、と言ってもかまいません。単語の終わりのほうはどちらも r の響きなので、聞くときは、始まりの一瞬が開いているかどうかに注意を向けてください。

スペクトログラムで、目で見て比べる

図の見方は「hat・hut・hot の聞き分け方」と同じです。横軸は時間、縦軸は音の高さ(周波数、単位は Hz)、色は成分の強さで、黒、紫、橙、白の順に強くなります。母音のところでは、強い成分が橙や白の横長の帯になり、縦に何段か重なって見えます。

母音の音色は下から 1 本目と 2 本目の帯で決まりますが、r の響きは 3 本目の帯に出ます。男性の声では、ふつうの母音の 3 本目の帯は 2,500〜3,000 Hz あたりにあります。r の響きが加わると、この帯が大きく下がり、2,000 Hz より下まで降りてきます。図では、3 本目の帯に黄色の線(3)を重ねました。上端の記号は音の区切りで、枠で囲んだところが母音と r の区間です。図かボタンを押すと、再生に合わせて位置が進みます。

hurt のスペクトログラム
3 が最初から低い
heart のスペクトログラム
3 が高いところから下りる

アメリカ英語・男性。黄色の線(3)が 3 本目の帯。

hurt では、黄色の線が始まりの時点ですでに 2,000 Hz あたりにあり、すぐに 1,600 Hz 台まで下がって、そのまま平らに続きます。r の響きが、母音の最初から最後まで鳴っているということです。heart では、黄色の線が 2,800 Hz あたりの高い位置から始まり、後半にかけてゆっくり下りてきて、最後は hurt と同じ 1,700 Hz 前後に落ち着きます。つまり 2 つの単語は終わりの部分がほとんど同じで、違いは始まりから半ばにかけてにあります。

heart の前半では、下の方で 1 本目と 2 本目の帯が近づき、1 つの太い帯のように見えます。これは hot の母音と同じ形で、口が大きく開いた「アー」の印です。

hurt のスペクトログラム
低いところでほぼ平ら
heart のスペクトログラム
上から下りてくる

アメリカ英語・別の男性。線の見方は上の図と同じ。

別の男性の声では差が小さめで、3 本目の帯は hurt が 1,900 Hz あたり、heart が 2,250 Hz あたりから始まります。それでも、heart のほうが高いところから始まって下りてくる、という並びは同じです。声によって帯の位置は変わりますが、「始まりが高いかどうか」という比べ方は変わりません。なお、女性の声は 3 本目の帯が図の上で見えにくいため、図は男性の声にしました。耳で聞く違いは同じなので、上の表の女性の声でも確かめてみてください。

PhonoFit では、練習中に答えたあと、2 つの単語のスペクトログラムを音の区切りといっしょに並べて比べられます。耳で聞いた違いを、目で確かめながら練習できます。

イギリス英語では r が消える

イギリス英語では、hurt も heart も r を発音しません(/hɜːt/ と /hɑːt/)。r の響きという手がかりがなくなるので、違いは母音そのものだけになります。

イギリス英語・男性
イギリス英語・女性
hurt のスペクトログラム
1 と 2 が離れている
heart のスペクトログラム
1 と 2 が近く、重なる

イギリス英語・男性。水色の線(1)が 1 本目の帯、黄緑の線(2)が 2 本目の帯。

3 本目の帯は、どちらの単語でも 2,600〜2,800 Hz あたりで平らなままで、アメリカ英語のようには下がってきません。代わりに違いが出るのは、下の 2 本です。hurt では 1 本目の帯が 600 Hz 前後、2 本目が 1,350 Hz 前後で、間が開いています。heart では 2 本目が 950 Hz 前後まで下がり、1 本目(650 Hz 前後)と重なるように見えます。hurt はどこにも寄らない中ほどの音色、heart は hot と同じ、奥で響く暗い音色です。

PhonoFit の出題には、アメリカ英語のほかにイギリス英語やオーストラリア英語の声も入っています。r の響きだけを頼りにしていると、r のない声で取りこぼします。始まりが開いているかどうか、つまり母音そのものの明るさを聞けるようにしておくと、どちらの英語にも対応できます。

例語ペアで自己テスト

hurt と heart と同じ組み合わせの単語を 8 組集めました。音声はすべてアメリカ英語です。左右のどちらが開いた「アー」で始まるかに注目してください。

/fɜːrm/ 会社、固い
/fɑːrm/ 農場
アメリカ英語・女性
/bɜːrn/ 燃える
/bɑːrn/ 納屋
アメリカ英語・男性
/stɜːr/ かき混ぜる
/stɑːr/ 星
アメリカ英語・女性
/fɜːr/ 毛皮
/fɑːr/ 遠い
アメリカ英語・男性
/hɜːrd/ 聞いた(hear の過去形)
/hɑːrd/ かたい、難しい
アメリカ英語・女性
/pɜːrk/ 特典
/pɑːrk/ 公園
アメリカ英語・男性
/dɜːrt/ 泥、土
/dɑːrt/ ダーツの矢
アメリカ英語・女性
/kɜːrv/ 曲線
/kɑːrv/ 彫る
アメリカ英語・男性

ここから先は「量」の世界

手がかりが分かっても、会話のスピードで母音を聞き分けるには反復が必要です。研究で効果が確認されている方法は、多くの話者の声でミニマルペアを聞き、どちらかを判定して、すぐに答え合わせをする、という流れを毎日短時間くり返すこと(高変動音素訓練、HVPT)。この記事の再生ボタンを順に押すだけでは「正解を知ったうえで聞く」練習にしかならないので、ランダム出題と正誤フィードバックのある環境で鍛えるのが近道です。ほかの音の聞き分けは「hat・hut・hot の聞き分け方」「L と R の聞き分け方」「B と V の聞き分け方」で同じように解説しています。

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